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症例紹介

閲覧時の注意
こちらのページには病気の説明のほか、レントゲン写真やエコー画像、手術中の画像や患部の傷の画像なども掲載しております。 そういった画像が苦手な方は、閲覧に十分ご注意ください。
  • 内蔵型肥満細胞腫

    症例は11歳齢の未避妊メスの猫。糖尿病の既往歴が有り、定期的に血糖値をチェックし経過を見ていたが、突然の元気食欲の喪失を主訴に来院されました。以下がその時のレントゲン検査とエコー検査所見です。

    レントゲン検査の結果、肝臓周囲に腫瘤性病変があることが疑われ(レントゲン画像の矢印部分)、更にエコー検査にて肝臓と接するように脾臓が大きく腫れていることがわかりました(エコー画像の矢印部分)。

    そのため、血液凝固能に異常がないことを検査で確認の上、脾臓の細胞検査を行いました。以下は脾臓より針吸引生検した検体を染色し、顕微鏡で観察した様子です。

    検査の結果、細胞質に多数の顆粒を含んだ肥満細胞が多数認められ、内蔵型肥満細胞腫と診断しました。

    内蔵型肥満細胞腫は高ヒスタミン血症から胃潰瘍などの消化器症状を引き起こし、嘔吐や元気消失などの臨床症状が現れます。猫の脾臓に肥満細胞腫が発生した場合、高い確率で肝臓などの他の臓器にも播種している可能性がありますが、脾臓を摘出する事により臨床症状の改善が見込めるため、手術にて脾臓摘出を行いました。

    以下は開腹時の所見です。

    画像は開腹し脾臓を腹腔外へ出した時の様子です。脾臓は重度に腫脹し、中央部分が一部破けていました。脾臓への多数の血管を止め、脾臓を摘出し、他の臓器に大きな異常がないことを目視にて確認し、閉腹しました。

    症例は翌日からとても元気になり食欲旺盛になったため、数日で退院となりました。今後は糖尿病のコントロールを行いながら、再発の監視を行います。近年効果があると報告されている分子標的薬も一つの選択肢ですが、持病もあるため慎重に検討する必要があります。

  • 子宮蓄膿症

    症例は7歳齢の未避妊メスのチワワ。ここ数日食欲が無く、元気がなくなったとのことで来院しました。身体検査では、陰部より少量の排膿が認められ、各種検査を行いました。

    上の画像はレントゲン検査所見です。子宮の位置に軟部組織陰影が認められました(矢印部分)。

    上の画像は超音波検査所見です。レントゲン検査の矢印のあたりに超音波を当てています。正常な子宮は超音波検査では見えないことが多いですが、本症例では子宮と思われる陰影がはっきり確認されました。また、血液検査では白血球の増加が認められました。

    以上より子宮蓄膿症を強く疑い、開腹手術を行いました。

    術中所見です。画像の右が頭側、左が尾側です。膿を溜め込んだ左右の子宮角を確認しました。本症例は子宮から腹腔内に膿が漏れ出て、重度の腹膜炎を併発しており、非常に危険な状態でした。

    腹水の培養検査を行い、子宮・卵巣摘出術を実施しました。

    お腹を裏打している腹膜は重度に充血し、腹水が認めれます(左画像)。また、腸間膜にも炎症は波及し、出血が認められます(右画像、矢印)。そのため子宮・卵巣を摘出後に、温めた生理食塩水を用いて腹腔内洗浄を十分に行いました。

    術後にも腹腔内の滲出液が排液されるよう、閉腹時にドレーンを設置しました(下画像の矢印)。

    このドレーンは腹腔内まで繋がっており、毛細管現象によりお腹の中の汚れた液体が排出されます。本症例は5日程で排液が認められなくなったため、その時点でドレーンを抜去しました。

    術後は静脈点滴と、培養検査結果より選択された抗生剤の投与を行い、数日で元気食欲は改善し退院となりました。

    子宮蓄膿症は中高齢の未避妊メスに発生する病気で、発見が遅れると腎不全や腹膜炎を併発し命に関わります。若いうちに避妊手術を行うことで、この病気は予防することができます。

  • 橈尺骨成長板骨折

    症例は4ヶ月例の雌猫。自宅で遊んでいたところ子供とぶつかり、左前足を着けなくなったとのことでした。自宅近くの動物病院を受診し、X線検査を行ったところ、骨折していることがわかりました。

    当院へはセカンドオピニオンを求めて来院されました。持参して頂いたX線写真を確認すると、左前肢の橈尺骨遠位端の成長板の所で骨折していました。内科管理と外科的整復の利点・欠点をご説明し、オーナーと相談した結果、当院にて骨折の手術を行う事になりました。

    以下の画像は術前のX線検査所見です。

    矢印の部分で骨折を起こし、ズレがあるのがわかります。

    症例は4ヶ月齢と若く、骨もかなり細かったため、0.8mmのKワイヤーと呼ばれる医療用ステンレスピンにて骨折整復を行いました。以下の画像は術後のX線検査所見です。

    尺骨には1本のKワイヤーを使って随内ピン固定を行い、橈骨は2本のKワイヤーでクロスピン固定(Xになるようピンを挿入し固定)を行いました。

    術後は安静を保ちつつ、患肢を着かせるようにし骨癒合を促進させます。子猫のため、骨の成長を妨げないよう、1ヶ月後には骨癒合の具合をみて可能であれば抜ピンを行います。

    成長板骨折は、骨が長く成長するための部位での骨折です。そのため骨癒合が完了した後も、成長に伴って骨の変形が認められることがあり、注意が必要です。

  • 会陰ヘルニア

    症例は13歳のコーギーのオス。便の出が悪いとのことで来院しました。直腸検査にて、直腸を支える筋肉が薄くなっており、会陰ヘルニアであることがわかりました。

    会陰ヘルニアは、直腸を支持する筋肉が萎縮する事で直腸が蛇行し、便を出すのに時間がかかったり、便が出なくなるなどの排便困難を呈する病気です。また、膀胱が肛門側へ変位し、排尿困難に陥る事もあります。

    そこで飼い主様と相談の結果、手術によりへ院ヘルニアの整復を行うこととしました。

    上の画像は麻酔をかけ、毛刈りなどの前準備が済んだ後の臀部周辺を示しています。肛門は正常よりも後方へ変位し、周囲の皮膚は垂れ下がっているのがわかります。

    手術は、人工医療用素材であるポリプロピレン・ソフトメッシュを使用し、直腸を支持する筋肉の替わりとなるよう、肛門周囲組織へ設置します。

    ↑ ポリプロピレン・ソフトメッシュである「PROLENE Soft」を使用。

    上の画像はメッシュを設置し、縫合が終了した直後の様子です。肛門周囲の筋・皮下組織とメッシュを固定し、たるんでいた皮膚が引き締まっています。手術後、数日で排便困難は認められなくなり、一週間で退院となりました。

    上の画像は、術後一ヶ月後の様子です。正常な外貌に戻りました。以降も排便困難は無く、スムーズに排便ができるようになりました。

    会陰ヘルニアの手術には特別な技術が必要です。訓練された獣医師の手術でなければ再発を繰り返し、その度に手術を行わなくてはならず、後遺症の発生率も高まるため注意が必要です。

    この病気は、男性ホルモンの影響で発生すると考えられており、会陰ヘルニア予防には若い内に去勢手術を行うことが有効です。

  • 膝蓋骨内方脱臼

    症例は1歳齢のチワワのオス。一週間前より左後肢を引きずっているとのことで来院しました。触診にて両側の膝蓋骨(膝のお皿)が内側へ脱臼していることが分かりました。以下は初診時のX線検査所見です。

    矢印で示したように、両側の膝蓋骨が内側へ外れています。股関節や靭帯などの他の部位に異常が無いことを確認し、膝蓋骨内方脱臼による跛行と診断しました。

    膝蓋骨内方脱臼がある場合、膝がまっすぐ屈伸できないことで、長い年月をかけて骨が変形し、それに伴い膝の靭帯を損傷する可能性があります。今回、症状が強く現れていたのは左後肢ですが、将来的に骨の変形が進行するのを予防するため、飼い主様と相談の上、両側の膝蓋骨内方脱臼の整復術を行うこととしました。

    術後のX線所見です。膝蓋骨が正常な位置へ整復されています(矢印部分)。脛骨(スネの骨)には、変形した骨を骨切りにより矯正し、固定するためにKワイヤーと呼ばれる金属を打ち込んでいます。他、滑車溝(膝のお皿が乗る溝)の造溝や関節包の縫縮など、様々な手技により膝蓋骨を整復しました。

    術後は安静を保ち、レーザー治療などの理学療法を行い機能回復を図ります。

    ↑ レーザー治療の様子

    この症例は術後2週間ほどで正常歩行に戻りました。以降もレーザー治療や関節サプリメントを継続する事で、更なる機能回復が期待されます。

  • アレルギー性皮膚炎・皮膚糸状菌症

    症例は9歳、柴犬のオス。皮膚の痒み・脱毛があり、他院の治療を受けたが改善が認められないかったため、セカンドオピニオンを求めて当院を受診しました。

    症状の出方や犬種、諸検査の結果より、アレルギー性皮膚炎が疑われました。そのため飼い主様と治療方針を相談し、食事療法と消炎治療・抗生剤治療を開始することとしました。その結果、痒みや脱毛などの皮膚症状は改善し、食事や投薬を調節しながら6ヶ月ほど良好に推移しました。しかし、その後再び皮膚症状が悪化しました。

    顔面周囲、四肢の脱毛・発赤が認められ、痒みも強く認められたため、改めて皮膚検査を行ったところ、皮膚糸状菌症を併発していることが判明しました。そこで抗真菌剤の投薬を開始し、低アレルギー食の見直しも同時に行いました。

    ↑ 皮膚糸状菌の検査。被毛を黄色い培地に植え込み、培地の色が黄色から赤色へ変化した場合、皮膚糸状菌陽性と判断します。

    投薬と食事療法の見直しにより、皮膚症状は再び改善が認められました。

    皮膚病は細菌性・真菌性・アレルギー性・内分泌性・皮膚腫瘍・栄養の問題など、その原因は多岐に渡ります。検査結果や治療反応を考慮し、飼い主様と治療内容を相談しながら、辛抱強く治療を継続していく必要があります。

  • 膀胱結石

    症例は15歳齢のオスの雑種犬。血尿が出ているとのことで来院しました。以下はX線検査所見です。

    X線検査にて膀胱内に多数の結石が認められました(矢印部分)。症例は高齢でしたが、血液検査などの各種検査で麻酔がかけられない所見がなかったため、飼い主様と相談の結果、開腹手術にて膀胱結石の摘出を行うこととしました。

    上の左画像は開腹下で膀胱を確認したところです。多数の結石により重度の膀胱炎を起こしており、血管が怒張しています。右の画像は膀胱切開し、結石を摘出している様子です。

    結石を摘出後、膀胱・尿道内と腹腔内をよく洗浄し、定法通り閉腹しました。

    画像は摘出した膀胱結石です。術後、症例の血尿・頻尿はすぐに改善しました。

    結石分析の結果、リン酸アンモニウムマグネシウムを主成分とするストラバイト結石とわかりました。以降は処方食により、再び結石が形成されないよう予防していくことが重要になります。

  • 環軸亜脱臼

    症例は4か月齢のメスのトイプードル。首を痛がるとのことで近医を受診し、X線検査により環軸亜脱臼と診断され、当院へ手術目的で紹介来院されました。

    上の画像は術前のX線検査所見です。第一頸椎(環椎)と第二頸椎(軸椎)の間に開きがあり、環椎の腹方への変異が認められ、環軸亜脱臼が確認されました(矢印部分)。そのため、頸部痛解消と脊髄の損傷を防ぐ目的で環軸亜脱臼の整復手術を行いました。

    上の画像は術後のX線画像です。環椎と軸椎の脱臼を整復し関節面を掻把、K-ワイヤーとスレッドピン、骨セメントにて環椎と軸椎を固定しました。また、環椎と軸椎の骨癒合を促進するため、海綿骨移植を行いました。

    環椎と軸椎の骨癒合が進むまで、頸部を包帯などで外固定する必要があります。今回の症例は体重が1,4kgとかなり小さく、K-ワイヤーとスレッドピンもかなり細いものを使用したため、固定補助として装具士に特注のコルセットの作製を依頼しました。特注のコルセットが完成するまでは、簡易的なコルセットで頸部を固定します。

    ↑ 装具士とコルセットを調整している様子

    術後2ヵ月は厳密な安静が必要です。

    環軸亜脱臼は若齢のトイプードル等の小型犬に時々認められる疾患で、頸部痛だけでなく、放置することで深刻な四肢麻痺を起こす可能性があります。そのため、首を痛がるそぶりがある場合、早期に診断し治療を開始することが重要です。

  • 外傷性の眼球突出

    症例は推定3歳齢のオスのポメラニアン。高い所から落下してしまい、右目が赤くなってしまっているとのことで来院しました。以下の画像は初診時の外貌です。

    強い衝撃が顔面に加わったことで、右眼が眼球突出を起こしていました。眼球結膜は重度に充血し、角膜炎、前眼房出血をおこしていました。そのため、麻酔下にて眼球整復を行い、再脱出の防止と角膜修復の目的で眼瞼フラップを行いました。

    ※眼瞼フラップ・・・上瞼と下瞼を閉じた状態のまま縫合し、眼球を湿潤状態に保つ手技。

    ↑ 術後の様子です。飛び出していた右眼を整復し、眼瞼フラップにより右眼が閉じた状態に保たれています。

    ↑ 術後5日目の様子です。眼瞼のアザがかなり引いています。そのため、抜糸を行い眼瞼フラップを解除しました。

    ↑ 眼瞼フラップを解除した後の様子です。眼球の再脱出はなく安定しました。視力は残念ながら低下してしまいましたが、失明は免れました。

    外傷性の眼球突出は、時間が経てば経つほど視神経が引き伸ばされダメージを受けます。また角膜も乾燥による損傷を受けるため、出来るだけ早期に眼球整復を行う必要があります。処置が遅れると失明するだけでなく、角膜の損傷から眼に穴があき、眼球摘出が適用になる場合もあります。すぐに病院へかかることが重要です。

  • 膝蓋骨内方脱臼・前十字靭帯断裂

    症例は12歳齢の柴犬。2週間ほど前につまずいて以来、右後肢を痛がるようになったため近医を受診したところ、整形外科が診られる病院へ行くよう薦められ、当院を受診しました。

    触診では右膝関節に痛みがあり、膝蓋骨内方脱臼と、膝関節の前方向への不安定性を検出しました。下の画像は初診時のレントゲン画像です。

    レントゲン検査では、両側の膝蓋骨内方脱臼(矢印部分)や、関節液貯留などの関節炎所見が確認されました。以上より、膝関節内方脱臼からの前十字靭帯断裂の併発と診断し、手術を行うこととしました。症例はすでに高齢のため、麻酔時間短縮のため、今回は症状が強く出ている右後肢のみ、手術を行いました。

    前十字靭帯断裂の手術手技は、スーチャーアンカーによる関節外法を選択しました。

    ↑ スーチャーアンカー。骨に打ち込むステンレス製のアンカーと、人工靭帯となるファイバーワイヤーが一体化したインプラント。これを切れてしまった前十字靭帯の代わりとなるよう装着します。

    上の左画像中央で切れた前十字靭帯を攝子(ピンセット)で示し、右画像中央で損傷した半月板を鉗子でつまんで示しています。切れた前十字靭帯と損傷した半月板は痛みの原因となるため、切除します。

    ← 切除した半月板

    定法通り膝蓋骨内方脱臼整復を行い、次にスーチャーアンカーを使って関節外法を行い人工靭帯を装着しました。

    上の画像は術後のレントゲン検査の様子です。膝蓋骨の位置が正しい位置になり(矢印部分)、触診でも膝の前後方向への不安定性がなくなりました。術後しばらくは安静を保ち、徐々にリハビリを開始していきます。

    近年、前十字靭帯断裂の手術方法には多くの手技が考案されており、人工靭帯を使用した関節外法、TPLO(脛骨高平部水平骨切り術)、TTA(脛骨粗面前進化術)などがあります。手術方法の選択は、症例の年齢・体重・活動性・併発疾患・費用などを考慮し、相談しながら決定します。